INTRODUCTION

本作は、第25回プチョン国際ファンタスティック映画祭や第11回北京国際映画祭などの海外の国際映画祭で映画賞を受賞し、第33回東京国際映画祭でも上映され、大きな反響を呼んだ、日本映画としては稀有なディストピア映画。

脚本・監督・編集は佐々木想。自主制作映画『ぴゅーりたん』が2009年、第31回ぴあフィルムフェスティバルに入選するほか、第28回バンクーバー国際映画際にて、ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワード(アジア新人監督賞)にノミネートするなど、海外でも評価を得ている新進監督だ。大胆な発想と鋭敏な感性で唯一無二の世界観を構築し、賛否を巻き起こす比類なき意欲作を作り上げた。本作が絵空事の物語か否かは観た者に委ねられるだろう。

主演はお笑いタレントのいとうあさこ。共演に、佃典彦、大方斐紗子、保永奈緒、宍戸開など、個性的な俳優陣が顔を揃えている。

STORY

現人神である「カミサマ」を国家元首にいただき、清く、美しく輝けるとある国のとある街。少子化にあえぐこの街では、45歳以上の未婚者は市民権を失うという条例が制定されており、市民権を剥奪されると、街を出て行かなければならない。あるいは、軍に入隊し、強制的にお国の為に働く道を選ばなければならない。 この街で介護施設を営んでいる未婚のよしこは、45歳を目前に控え、この街から排除される不安を抱えながら、日々暮らしていた。市民権を得ることを諦め、街を出るという選択もあるが、彼女は施設に入居している老人たちを見捨てることはできない。そんな中、老後施設に一人の身元不明の中年男性が突如として迷い込んでくるのであった・・・。

PRODUCTION NOTE

はじまり
2018年夏、監督・プロデューサーの佐々木は一人、ロケ地となる廃ラブホテルを求め千葉県全域を彷徨っていた。
2015年に佐々木の妄想によって第一稿が書かれた本作は、その後改稿を重ねた。2018年に入りヒロインの出演が決まり、秋に撮影することが決まったものの、その時点ではスタッフや他の出演者の多くが集まっていなかった。その後、集まった凄腕のスタッフが半ば呆れながらも尽力し、2018年の10月に撮影が始まった。
キャスティング
監督が出演依頼をした“ヨシコ”役のいとうあさこについて「テレビで拝見して筋の通った方だと感じていました。いとうさんに演じてもらえることによって、ヨシコが理不尽に排除される社会は、絶対に不幸だと、お客さんにも感じていただけると思ってお願いしました」と監督は語る。監督は景気付けに酒を二杯飲んでから事務所へ電話をかけたというが、海外ロケも多く多忙にもかかわらず、彼女は出演を快諾した。
いとうあさこの相手役として“鈴木さん”を演じた佃典彦については、「劇作家としても俳優としても活躍されていて何本も拝見し、自分の作品に出演して頂きたいと思っていました。」演技については、「高貴な王ではなく、自信を失っている中年男性の象徴として演じて頂けるようお願いしました。最初は、“この男は佐々木そのものだから佐々木が演じたらどう?”と戯れに言われたのですが、最終的に引き受けてもらいとても感謝しています。」
強い存在感を残し、本作に欠かせなかった大方斐紗子については、「多くの出演作品を拝見してきました。絶対音感をお持ちで歌も素晴らしく、説得力を加えてくださり大変ありがたかったです」
宍戸開については、「宍戸さんの政治に物申すことを恐れない姿勢を知り、政治家の役をお願いしました。お送りした台本を床屋で読んで笑ってくださったそうです」と語る。

今回が映画初出演となった保永奈緒は芯の強さを感じさせる佇まいで独自の存在感を放つ。オーデションでも、その存在感が際立っていた。
また若い世代を中心に絶大な支持を集める中島健や佐野弘樹が、流行に従順な若者たちを軽やかに演じる。

他に監督の二十年来の先輩でありアングラ演劇の王道を征くイワヲ、監督の十年来の友人でありセダン車の運転が苦手な監督に代わり劇中車をロケ地まで運んだ好漢・松永大輔が、意識・世代の異なる2人の官僚を演じるなど、演劇界を中心に活躍する役者が多数出演している。
スタッフィング
撮影監督を俳優・監督としても活躍する岸建太朗が努めた。彼は撮影前に脚本の読み合わせを何度も重ね作品世界に独自の解釈を加えていった。また監督としても活動する鈴木宏侑らをチームに引き入れ文字通り撮影隊をまとめ上げる。撮影後も本作に深く関わり、カラリストの星子駿光とともに独自の映画世界を作り上げた。 録音は「旅人」でもある小牧将人が務めた。彼は常に冷静に現場を見、現場が行き詰まりを見せると重要な発言をし、方向を修正した。
リレコーディングミキサーの野村みきは、フランスで学んだ経験と技術をいかんなく発揮し、予算と完全に不釣り合いな音響世界を完成させた。
制作担当を務めた飯塚香織は、ロケ地探索を監督から引き継ぐや、セダン車を駆って現地を廻り全ての交渉を恐ろしいスピードでまとめ上げた。また同時に細かな気遣いで撮影スタッフ全体を支えた。
他にも衣装の小笠原吉恵、ヘアメイクの寺沢ルミ、助監督の岩谷文雄などをはじめ、経験豊かで映画を支えてきた人々が多数参加している。
また題字は監督の前作「隕石とインポテンツ」「サトウくん」と同じく書家の小野﨑 啓太が書いた。宇都宮市に教室・道場を構える彼は、百枚以上大書した中から、ユーモアと力強さを兼ね備えた本作の題字となる書を選んだ。
作品について
初期のメモには本作の発想についてこう書かれていた。
「第二次大戦の敗戦後、私たちの国は個人の人権という概念を得ました。それから70余年、私たちはこの権利を享受してきましたが、今やその恩恵を当たり前のものとして、さして顧みることがありません。それどころか自ら大きなものに巻かれようとし、異質なものを攻撃することによって連帯感を得ようと懸命になっているように見えます。個人の対話よりも集団間の対立が優先され、個人の人権がふんわりと制限されていく動きの中で、私は社会の中で最も人権の制限された存在について今一度思いを馳せます。その制限された自由は私たちの社会の矛盾の象徴です。私は架空の国のSFとしてこの『鈴木さん』という物語を妄想します。」

このメモについて監督に問うと、彼はこう答えた。
「私は昔から集団との付き合いがすごく苦手で。私のようなものにとって、ちょっと生きづらい社会が到来するんじゃないかという、“みんなで同じ方向を向いてやることが素晴らしい”ということに飲み込まれそうな匂いを感じました。
敵を作って、それを攻撃することによって一致団結する、そういうものをよしとする自分たちに怒りを抱いていました」

劇中で使用される肖像画も印象的だ。作品世界での現人神である”カミサマ”の肖像画だが、デフォルメされた大きな目を持ち、極端な美肌をしている。「脚本を書いていた頃、プリクラのデカ目機能に大変驚きました。目が大きいことに対する意識や羨望は知っていましたが、ここまで来たかと。デカ目機能と美肌機能の美意識をこのSF世界の肖像画に取り入れました」

本作は、日本の過去や不吉な未来の展望が入り乱れた、滑稽で奇怪なディストピアを通じ、独特のユーモアで社会に切り込んでいく。
私たちは自分たちで奉り上げた尊い存在が目の前に現れた時、どのように彼または彼女と出会い、または出会い損なうのだろうか。

「ヨシコと鈴木さんの出会いは大変地味でささやかですが、それでもこのディストピア世界において一種ささやかな希望になり得るのではないかと思います。」

CAST & STAFF

いとうあさこ(よしこ役)
佃典彦(鈴木さん/謎の男役)
大方斐紗子(すみこ役)
保永奈緒(のりこ役)
宍戸開(ホンダ役)
いとうあさこ(よしこ役)
東京都出身。お笑い芸人。現在テレビ「世界の果てまでイッテQ!」「ヒルナンデス!」(NTV)「すイエんサー」(NHK)やラジオ「ラジオのあさこ」「大竹まこと ゴールデンラジオ!」(文化放送)「あさこ・佳代子の大人なラジオ女子会」(NHKラジオ第1)などにレギュラー出演中。その他、映画『クレヨンしんちゃん 超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁』や『怪盗グルーのミニオン大脱走』では声優として、ドラマ「東京タラレバ娘」(2017年/NTV)、「警視庁・捜査一課長 season3」(2018年/EX)、映画『ピーナッツ』(2006年/内村光良監督)、『サブイボマスク』(2016年/ 門馬直人監督)『鈴木さん』(2022年2月公開/佐々木想監督)などに出演。劇団山田ジャパンにも2008年の旗揚げより所属。
佃典彦(鈴木さん/謎の男役)
愛知県出身。劇団B級遊撃隊の1986年の最初の公演以来、毎年コンスタントに公演を行ない、40回以上の公演を行う。外部への作品提供や外部出演と精力的に活躍している。 1996年「KAN-KAN」にて第4回読売演劇大賞優秀作品賞、 2001年「満ち足りた散歩者」にて第5回松原英治・若尾正也記念演劇賞、 2006年「ぬけがら」にて第50回岸田國士戯曲賞を受賞。俳優としては、NHK朝の連続小説「おかえりモネ」(20年)、ドラマ「半沢直樹」(20年)などに出演。
大方斐紗子(すみこ役)
福島県出身。劇団俳優座付属養成所出身で舞台、テレビドラマ、映画などで活躍する他、声優としても活動している。特に『太陽の王子ホルスの大冒険』の主人公ホルス役としても有名。また福島県を舞台とした作品に方言指導として関わることもある。主な出演作品に、ドラマでは「夜逃げ屋本舗」(1992年/NTV)、「水戸黄門」(TBS)、「ケイゾク」(1999年/TBS)、「L×I×V×E」(1999年/TBS)、映画においては、『おらおらでひとりいぐも』(2020年/若竹千佐子監督)『あなたの番です 劇場版』(2021年/佐久間紀佳監督)など多数出演。
保永奈緒(のりこ役)
広島県出身
女優、モデルとして活動。
現在放送中のCM「チャミスル」やwacciのMV「劇」にもメイン出演。
LINE VISONドラマ「THE LONGHAIR SEVEN(須藤シグマ監督)」では岡本シホ役を演じ好評。 映画やドラマ、CM、MVなど多方面で活躍し今後に期待の女優。
宍戸開(ホンダ役)
東京都出身。1988年、NHK大河ドラマ「武田信玄」で俳優デビュー。初主演映画「マイフェニックス」で、第13回日本アカデミー賞新人賞を受賞。ドラマをはじめ、映画、バラエティと幅広い分野などでも活躍。その他の映画作品について、『テルマエ・ロマエII』(2014年/武内英樹監督)、『クローバー』(2014年/古澤健監督)、『超高速!参勤交代 リターンズ』(2016年/本木克英監督)、『劇場版 ウルトラマンジード つなぐぜ! 願い!!』(2018年/坂本浩一監督)などがある。
監督:佐々木想(ささき・おもい)
山口県旧豊浦郡出身。演劇を流山児祥氏に師事。水産業、解体業、遊興施設従業員等を経て2004年より映像業に従事。世界から破れ去る人々、出会い損なった人々の物語をユーモアと哀歓を込めて描く。過去作品に「隕石とインポテンツ」(2013年公開・カンヌ 国際映画祭短編コンペ部門)「サトウくん」(2017年公開・第9回沖縄国際映画祭)など。